ソーシャルスキルトレーニング

認知行動療法を知る 人とうまく関わる方法を学ぶ・ソーシャルスキルトレーニング(STT)

社会とつながるスキルを磨く

私たちは、生きていくなかで様々な経験によって社会や人との関わり方を学んでいきますが、人によってはその学習ができないまま大人になったり、精神疾患によってそれがうまくできなくなったりすることがあります。たとえば、仕事でミスをしたとき、素直に反省せずに人のせいにして顧客を怒らせたり、知人と話していて、このあと予定があると言われたにも関わらず、自分の話したいことを延々と話し続けたり「今、これを言ったらまずいな」とか「そろそろ切り上げなくては」などと相手の感情や状況を気づかうことができずに、自分の感情や欲求だけに集中してしまうのです。そうなると、人間関係に支障をきたすだけでなく、トラブルがトラウマとなって人や社会と関わること自体に臆病になっていきます。
こうした社会や日常のなかで人間関係を円滑にすることが困難な状態を、コミュニケーションスキルの学習によって克服していくのがソーシャルスキルトレーニング(SST)です。自分の状態や言動をコントロールするスキルを身につけることで、社会的に不適切な行動を修正し、対人行動や日常生活をスムーズに行うためのリハビリテーションであり、対人関係が苦手な人情緒不安定な人のほか、長期の休養から社会復帰をする際に人間関係に不安を抱いている場合などにも活用されます。

<ソーシャルスキルトレーニングが向いている人・状態>

  • 自閉症スペクトラム
  • ADHD
  • 統合失調症
  • うつ
  • 対人関係が苦手な人
  • 社会や組織に適応しにくい人
  • 情緒不安定な人

ただし、現在では統合失調症患者には、繰り返し(日常的に)実施してはいけないという考えもあります(※)。

グループで実践・シェアを繰り返す

ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、グループによるロールプレイが基本です。日常生活で起こり得る課題や場面を、参加者たちで役割をもって演じることで、「こういう場合にはこんな言動をとればいいんだ」と、社会のなかで必要なコミュケーションスキルを学んでいきます。そのおもな手順は以下の通りです。

① 説明:ロールプレイのやり方や目的などの説明を受ける。
② ウォーミングアップ:演技を楽にできるような雰囲気をつくる。
③ 課題設定と役割の決定:練習する課題と環境を設定し、役割を決める。
④ 実演:シナリオ通りに演じたり、アドリブで演じるなどして、その場面を繰り返したりしながら、問題解決の方法を見出し、当事者となる自分の感情や思いに気づく。
⑤ シェアリング:終了したら、お互いに気づいたことをディスカッション。互いのよかったところを見つけて褒めるという「正のフィードバック」をメインに行い、そこから改善点を話し合う。
⑥ 再ロールプレイ:5で話し合った改善点に注意しながら、再度練習。ロールプレイを行ったあとは必ず、シェアリングを行う。

ロールプレイの際、③の課題設定は、できるだけ参加者の現実に近くするほうが効果的です。たとえば職場での人間関係に難しさを感じているとしたら、環境設定は職場にして、自分が苦手と感じているコミュニケーションや、周囲から指摘されていることなどを課題とします。
また、④の実演では、ともにワークを行うグループのメンバーは、トレーニングの主体となるメンバーの上司、部下、同僚、家族などの役割を担います。ロールプレイでのやりとりは長時間である必要はなく、ピンポイントでOK。会話や言動が終わったら、全員で気づきをシェアリングします。こうしたトレーニングを繰り返すことで、「こういうときは、こんなふうに対応すればいい」というコミュニケーションスキルを学ぶのです。
トレーニングで学んだことは、日常生活での実践にトライし、次回のトレーニングで実践の結果を報告するということを重ねます。このようにして、時間をかけてスキルを身に着けいきます。ソーシャルスキルトレーニング(SST)は、精神科の外来リハビリや、精神保険福祉センターなどでおもに開催されています。もともとは、統合失調症を対象に発展してきたもので、日本では1994年から健康保険の適用となったこともあり、多くの成果を上げています。ただし、現在では統合失調症の患者に繰り返してトレーニングを行うことは効果的ではないという意見も出てきました(※)。精神疾患の人がトレーニングを受ける際には、医師の指導に従いましょう。

※wikipedia「適用」の項目を参照ください(http://bit.ly/2gaPMsY

■ソーシャルスキルトレーニング(SST)を受けられる機関

発達障がい支援センター
http://www.skill-t.org/counseling.html

うつ病リワーク研究会
http://www.utsu-rework.org

■活用できる書籍

『発達障害がある人のための みるみる会話力がつくノート』

『思いやりの人間関係スキル―一人でできるトレーニング』

『ちゃんと人とつきあいたい』
 
『大人のアスペルガーのためのソーシャルスキル・ガイド』

『暗黙のルールが身につく ソーシャルスキルトレーニング教材集』

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