腸内フローラの状態

心に良い食事の摂り方─6 腸内を整えて心も身体も軽くする①「心の病気と腸内常在乳酸菌」

腸内を整えて心も身体も軽くする①「心の病気と腸内常在乳酸菌」

乳酸菌は腸内環境を整える「善玉菌」の代表格

2015年2月に、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』が腸内のサイコバイオティクス(精神状態を変化させうる微生物)についての論文を掲載するなど、近年、心の病気と腸内細菌の関係が大いに注目されています。腸内細菌とは、文字通り、腸の中に生息している細菌のこと。人の腸内には500~1000種の腸内細菌が生息しており、それぞれの細菌が集落をつくっているさまがまるで花畑(フローラ)のように見えることから、腸内細菌の生態系のことを腸内フローラ(腸内細菌叢)と呼んでいます。
人体への影響という観点から、腸内細菌は「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3つに大きく分けられます。善玉菌は、その代謝の過程において、生命維持に必要な物質をつくり、消化吸収を助け、免疫力の活性化、感染防御などの機能を果たします。善玉菌の中核は乳酸菌ビフィズス菌ですが、ビフィズス菌も広い意味では乳酸菌の一種です。このほか、酵母菌、麹菌、納豆菌も善玉菌で、乳酸菌の増殖をサポートしたり、補完的に働いたりします。
一方、悪玉菌は、人体に有害な物質をつくり、腸壁の細胞にダメージを与えます。大腸菌のほか、食中毒の原因となるウェルシュ菌、大腸がんのリスク要因といわれるETBF菌(毒素生産型フラジリス菌)などがあります。なお、悪玉菌にも善玉菌にも分類されないのが日和見菌で、腸内フローラが善玉菌優勢のときは善玉菌的に働き、悪玉菌優勢のときは悪玉菌的に働きます。

乳酸菌は体内でどのように働くのか?

従来、食物の消化(分解)は、唾液や胃液、膵液などに含まれる消化酵素によってのみ行われると考えられてきましたが、腸内細菌も食物の消化・吸収・排泄の一連のプロセスに関与していることが分かってきました。その中でも、特に重要なのが、善玉菌の中心である乳酸菌です。乳酸菌はこれまで250以上の種が認められていますが、形状で分類すると、球状の「乳酸球菌」棒状の「乳酸桿菌」棒状で枝分かれしている「ビフィズス菌」に大別されます。これらのうち、人の腸内に常在しているのは乳酸桿菌とビフィズス菌で、乳酸桿菌は主に小腸に多く分布し、ビフィズス菌は主に大腸に多く分布しています。
腸内に常在する乳酸菌は、人と共生関係にあります。人が主に食物として摂取した糖質は、唾液や膵液に含まれるアミラーゼなどの消化酵素により徐々に分解されて腸へとたどり着きます。腸に常在する乳酸菌は、これを分解して自らが成長・増殖するためのエネルギーを取り出し、「副産物」として乳酸(ビフィズス菌は乳酸+酢酸)をつくり出します。この乳酸や酢酸は吸収効率が低く、多くは排泄物と一緒に体外に排出されてしまいますが、一部はカルシウムと結びついて水溶性の乳酸カルシウムとなり、カルシウムの吸収をサポートします。

乳酸菌の働きは、心の病気と健康にどう関わるのか?

一方、悪玉菌は、代謝の結果としてアンモニア、インドール、フェノールといった、人体にとって有害な物質をつくり出します。これら体内に吸収されると、抑うつ状態、睡眠障害、意識障害などを引き起こすことがあります。しかし、腸内で乳酸菌がつくり出す乳酸は、腸内を酸性にし、酸性環境を好まない悪玉菌の増殖を防ぎます悪玉菌が優位にならない腸内環境は、セロトニンやセロトニンの前駆物質である5-HTPというアミノ酸がつくられやすい環境でもあります。このように、乳酸菌が腸内環境を整えることが、心の状態にも影響を及ぼすことが分かっています。
また近年は、腸内細菌が脳神経に直接影響を及ぼすという見方も広がってきました。これが、冒頭で述べたサイコバイオティクスです。たとえば、カナダのある研究グループは、無菌状態で育ったマウス(A)に他のマウス(B)から取った腸内細菌を移植すると、マウスAはマウスBの性格を受け継ぐようになることを明らかにしました。その仕組みはまだ十分に解明されていませんが、研究が進むにつれて、乳酸菌や腸内フローラが、心の病気の分野においてもさらに注目されるようになるでしょう。

※乳酸菌と腸と心に関連する詳しい情報は、下記でもご覧いただけます。
こころにいいもの・いいことサイト
腸の健康の秘めた力を発揮させる「NS乳酸菌」」を読む

こんな記事も読まれています