電気けいれん療法(ECT)

知る人ぞ知る治療法 再評価される「電気けいれん療法(ECT)」

電気けいれん療法(ECT)

治療技術の進歩により安全性が飛躍的に向上

電気けいれん療法(ECT)は、頭部のこめかみ付近に電極を当て、100~110ボルトの電流を数秒間流すことにより人為的にけいれん発作を起こさせるもので、1930年代に統合失調症(当時の病名は精神分裂病)の治療法として開発されました。ハンガリーの精神科医が、臨床経験から「てんかん発作には統合失調症を予防・治療する効果があるのではないか」という仮説に基づき行ったもので、当初は、電気ではなくインシュリンなどの薬物を注射してショック状態を引き起こしていました。その後、イタリアで電気でショックを与える方法が考案され、「電気けいれん療法」として確立しました。
抗精神薬がなかった時代、ECTは重度の統合失調症やうつ病に即効性があることから、世界各国で用いられてきました。しかし、肉体的ショックを与えるため恐怖や苦痛が伴ったほか、全身がけいれんすることによる骨折や脱臼のリスク、副作用として記憶障害が生じるリスクがありました。また、モラルの低い病院では、扱いにくい入院患者への懲罰的に用いられてきたこともあり、批判や議論が多くなされました。このため一時はあまり行われませんでした。しかし近年では、治療法の改善が進み、重症患者に即効性が期待できる治療法として再評価されています。

重症患者に即効性が期待できる治療法

改善後の修正型電気けいれん療法(mECT)は、施術時に全身麻酔と筋肉弛緩薬を用います。麻酔で眠っている間に治療を行うため、痛みを感じることはありません。また、筋肉弛緩薬で全身のけいれんが起こらないため、骨折や脱臼も予防できます。
ECTがどのように働くのか、なぜ効くのかは、諸説があり完全に解明されていません。電気の刺激が神経伝達物質の分泌を促し、作用しやすくさせることで回復をサポートするとの考え方が主流のようです。最近の研究では、脳の特定の部位で細胞や神経ネットワークの成長を促すともいわれています。
ECT(mECT)を適用する主な疾患は、重度のうつ病・統合失調症・双極性障害です。精神的・肉体的な観点から迅速な治療効果を必要としている場合や、薬物治療で効果が出ない場合、薬物治療の副作用が強いため継続することが難しい場合、高齢者や妊婦など高い安全性を考慮すべき場合などに多く適用されています。副作用としては、治療後にもうろうとなったり、頭痛や吐き気が出たりするほか、治療前後のことを思い出しにくくなる記憶障害が起きることがあります。多くの場合は短期的なものですが、まれに記憶が欠損してしまうことも。ただし、2002年以降は、記憶障害の副作用が起きにくい「パルス波電流」の治療器が国内で認可されたことにより、近年はこの副作用もだいぶ緩和されているようです。なお、5~8万治療回数に1回以下という非常に低い確率ながら、死亡事例があります。
ECT(mECT)は、有効性は認められているものの、その適用については国や医師などにより温度差があるのも事実です。たとえば、アメリカ精神医学会は、2009年のガイドラインで予防段階でのECT使用を支持していますが、英国国立医療技術評価機構のガイドラインは深刻な抑うつなど限られたケースのみに用いるべきとしています。日本は、2013年の日本うつ病学会治療ガイドライン」によると、薬物療法が困難な症例にはECTを考慮すべきとの見解が示されています。

治療は保険適用。高額医療費制度も利用可能

ECT(mECT)による治療は、全身麻酔を用いるため入院が原則です。また、事前に、血液、心電図、X線検査、頭部画像検査などを行います。
治療費は保険適用ですが、3割負担で自己負担額は1回の施術が10,000円前後。施術は数日置きに少なくとも3~4回、多い場合は10数回行われるのが一般的です。入院費もかかるため、治療費はそれなりに高額と考えたほうがよいでしょう。ただし、自己負担限度額を超えた場合は、「高額医療費制度」を申請すれば、後から払い戻してもらうことも可能です。

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