磁力を感じさせる美しいオーロラの光

知る人ぞ知る治療法 脳科学研究から生まれた「磁気刺激治療」

磁気刺激治療

代謝が低下した脳を磁気刺激で改善

かつて、うつ病は「気持ちの病」と捉えられてきましたが、脳科学の研究が進歩したことで脳疾患の一つとして考えられるようになり、新しい治療法の開発が進んでいます。その一つが、脳に磁気刺激を与えて低下している機能を回復させる磁気刺激治療です。TMS、経頭蓋磁気刺激法など、別の名前で呼ばれることもあります。
うつ病を発症している人の脳は血流や代謝が低下し、脳機能そのものが低下していることが分かっています。特に、判断、意欲、興味をつかさどる背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)の機能が低下し、代わりに不安や悲しみ、恐怖といった感情を司る扁桃体が過剰に反応しています。そこで、特殊なコイルを使って脳に磁気刺激を与えて神経細胞を刺激し、脳血流を増加させることで背外側前頭前野を活発化。それによって意欲や正常な思考力を取り戻し、扁桃体の過剰な活動を抑えるのが磁気刺激治療です。

副作用の心配がほとんどない治療法

磁気刺激治療は、以前から頭痛や脳梗塞などの治療に活用されてきましたが、うつ病の治療法としては2008年にFDA(アメリカ食品医薬品局)で認可されたばかりです。日本では、医療検査機器としては承認されていますが、治療機器としての認可はされていません。このため、治療を受ける場合は健康保険のきかない自費診療となります。しかし、通常の薬物治療に比べて副作用がほとんどなく、数回の治療でめざましい成果が出た臨床結果もあるなど、高い効果が期待されています。
また、パーキンソン症候群、ジストニア、耳鳴りなどの神経症状や、幻聴などの精神医学的な症状に対しても有効な治療法であると期待され、世界中で研究が進んでいます。

「電気けいれん療法」よりも少ない副作用

磁気刺激治療と同様、脳に刺激を与える治療法としては、「電気けいれん療法(ECT)」があります。ECTはこめかみにつけた電極から脳に直接電流を流し、発作(けいれん)を人為的に起させる療法です。治療の際、全身麻酔を施すため入院が必要になります。1938年に開発され、薬物療法が一般的になるまでは、うつ病や精神分裂症(今の病名は統合失調症)の有効な治療法とされていました。しかし、当時の方法は苦痛や副作用(記憶障害)が伴い、病院によっては懲罰的に行われるケースもあったことなどから、廃止すべきという意見も少なくありませんでした。しかし近年、治療技術の進歩により、苦痛や副作用が大幅に軽減できるようになったことで、再び注目を浴びています。薬物に耐性ができてしまった重度のうつ病や統合失調症の患者さんなどに用いられています。

磁気刺激治療法とECTは、イメージが似ていますが、まったく別の治療法です。全身麻酔は不要で、副作用も一時的な頭痛や歯痛程度と、簡便に行えるメリットがあります。具体的な治療法は、1回40分ほどの磁気刺激を週3〜5回、1.5ヶ月程度行う(回数、期間などは個人差があります)のが基本で、入院の必要もなく、普段通りの生活を続けながら治療が行えます。

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