心と栄養素の関係─1 神経伝達物質って何?

心と栄養素の関係─1 神経伝達物質って何?

神経伝達物質って何?

「心の状態」は「脳の状態」

嬉しかったり、悲しかったり、ウキウキしたかと思えば、イライラしたり…。私たちの心は、いつも目まぐるしく変化します。しかも、同じような経験でも、あるときは不愉快だったのに、別のときは面白いと感じたり。なぜ、私たちの心はこんなにも揺らぐのでしょうか? 心の状態の変化は、脳の状態の変化でもあります。脳内にある「神経伝達物質」が、私たちの心をめまぐるしく変えているのです。そして、心がどんなふうに変わるかは、私たちが毎日食べているものが大きな影響をおよぼしています。

脳は、生きているコンピュータ

脳は、一千数百億個もの神経細胞で構成された「生きているコンピュータ」。神経細胞から神経細胞へと情報を伝え、心身をコントロールします。たとえば、蚊に刺されたとき反射的に蚊を手で叩こうとするのも、おいしそうな食べ物の匂いを嗅ぐと生唾が込み上げてくるのも、映画の悲しい場面で涙を流すのも、すべて脳の情報伝達により行われる反応です。人が生きている限り、脳の中では絶えず膨大な情報がやりとりされているのです。
脳を巡る情報は、電気信号として神経細胞から伸びたコード(=軸索)を通り、その先端あるシャワーヘッドのようなシナプスまで届きます(図1参照)。そこから次の神経細胞へと情報を伝えるわけですが、実は、シナプスと神経細胞の間は、20~30nm(nm=ナノメートル:1ナノメートルは100万分の1ミリ)の隙間があるため、電気信号はそこを飛び越えることができません。そこで、神経細胞はシナプスで電気信号を化学信号に変換し、隙間を飛び越えさせるのです(図2参照)。このプロセスに不可欠なのが、神経伝達物質です。

図1:神経細胞の構造

 

神経細胞の構造神経細胞は「細胞体」と「軸索」と「樹状突起」で構成されています。

図2:シナプスが信号を伝達する仕組み

シナプスが信号を伝達する仕組みシナプスに電気信号が到達すると、シナプス内の小胞から神経伝達物質がシャワーのように放出され、化学信号として次の神経細胞の受容体に取り込まれます。

そもそも、神経伝達物質って?

脳の情報伝達に深く関わる神経伝達物質の正体は、タンパク質の原料であり「旨み成分」でもあるアミノ酸です。アミノ酸が人間の体内に取り込まれると、皮膚や筋肉などの身体組織となったり、免疫力を高めたり、運動エネルギーとして使われるなど、その種類に応じた働きをします(必ずしも良い働きばかりではなく、ときには生命を奪うこともあります)。
地球上には約500種類ものアミノ酸がありますが、人間の皮膚や筋肉などのタンパク質を構成するアミノ酸は、わずか20種類しかありません。そのうち、心の状態に大きな影響をおよぼす神経伝達物質として働くアミノ酸は、アセチルコリン、ノルアドレナリン、アドレナリン、ドーパミン、セロトニン、GABA(ギャバ)などが代表的です。これらの神経伝達物質は、働き方の面から「覚醒系」「調整系」「抑制系」に分類されています。

  • 覚醒系:脳を興奮状態にさせ、集中力を高めたり、やる気を出させたりします。
  • 調整系:覚醒系と抑制系の神経伝達物質の分泌量のバランスをとります。
  • 抑制系:過剰に興奮した神経を落ち着かせ、心身をリラックスした状態にします。

心の状態に影響をおよぼす代表的な神経伝達物質を、下の表にまとめました。

神経伝達物質 化学構造 系統 主な働きと特徴
アセチルコリン 水溶性ビタミン様物質コリンと酢酸のエステル化合物 覚醒系 記憶、学習、睡眠、目覚めに影響します。分泌が少ないとアルツハイマー病に関与し、多いとパーキンソン病に関与すると考えられています。
ノルアドレナリン ドーパミンとドーパミンβ水酸化酵素が反応して合成される 覚醒系 集中力、積極性、攻撃性、目覚め、痛みの軽減などに影響します。分泌が少ないとうつ病に関与し、多すぎると、不安感やそう状態に関与すると考えられています。
アドレナリン ノルアドレナリンが副腎髄質にある酵素と反応して合成される 覚醒系 心拍数を上げ、血管を収縮させるほか、気管支を拡張させます。どちらかといえば思考や意識を活性化させるノルアドレナリンに対して、主に肉体を興奮させるように働くと考えられています。
ドーパミン 必須アミノ酸のフェニルアラニンから合成される 覚醒系 快感、陶酔感、気分高揚、創造性、攻撃性などに影響します。他の動物に比べ、人間は特に多く分泌される脳内伝達物質です。分泌が少ないとパーキンソン病に関与し、多いと統合失調症に関与すると考えられています。
セロトニン 必須アミノ酸のトリプトファンから合成される 調整系 快感・覚醒の調整、過剰な活動の制御などのほか、生体リズムや情動にも影響し、うつ病に深く関与する脳内伝達物質だと考えられています。
GABA(ギャバ) グルタミン酸とタウリンから合成される 抑制系 情報伝達全般に関わり、脳の興奮を抑制する働きを持つと考えられています。

神経伝達物質が「心」をつくる!?

神経伝達物質が適正なバランスで分泌されていれば、私たちの脳はバランス良く活動します。ところが、分泌が多すぎたり、少なすぎたりすると、脳の活動バランスも崩れてしまいます。たとえば、セロトニンの分泌が足りないと、集中力が維持できなくなったり、イライラが抑えられなくなったり、気力が出せなくなったりします。もしもあなたが、実際には落ち込むような出来事がないのに、気が滅入ったり、がっかりした気分になっているとき、それは、あなたの脳にセロトニンが足りていないのかもしれません。
このように、私たちの心は神経伝達物質に大きく影響されます。それは、生理的な反応であり、意思や努力ではどうしようもありません。しかし、意識的に食べる物を選ぶことで、神経伝達物質をコントロールすることがある程度可能です。そのための基礎となる考え方について、次に見ていきましょう。

次は…神経伝達物質は何からつくられるの?

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