脳内シナプスとレセプターによる神経伝達物質の流れ

心と栄養素の関係─2 神経伝達物質は何からつくられるの?

神経伝達物質は何からつくられるの?

「栄養素」が「脳の状態」を左右する

心の状態には、脳内の神経伝達物質が大きく影響します。心のバランスが崩れているときは、神経伝達物質の分泌がうまくいっていない場合が少なくないのです。では、神経伝達物質の分泌を整えるには、どうすれば良いのでしょうか?ここでは、脳の働きが化学反応であることに注目し、脳を維持・機能させる成分(=栄養素)について見ていきます。

脳が求める栄養素とは?

私たちの心をつかさどる脳は、主にタンパク質と脂肪からできています。また、脳内で情報がやり取りされるのに重要な役割を果たす神経伝達物質は、タンパク質を原料とするアミノ酸と酵素が反応することでつくられますが、このプロセスをサポートするのがビタミンとミネラルです。そして、あらゆる脳活動を支える唯一のエネルギーがブドウ糖です。
タンパク質、脂肪、糖を「3大栄養素」といい、ビタミン、ミネラルを「微量栄養素」といいます。これらの栄養素は、いずれも単一のものでありません。実にさまざまな種類があり、同じタンパク質でも種類が違えば働き方が違います。では、具体的にどんな栄養素がどのように働くのでしょうか? そして、不足すると、私たちはいったいどんな状態になるのでしょうか? 以下では、脳が必要とする主な栄養素と役割、不足したときの状態、を紹介します。

栄養素役割不足すると…
糖質ブドウ糖
(グルコース)
エネルギー源感情制御の困難(特にイライラ)、集中力低下、不眠、疲労、うつ
タンパク質アミノ酸
(トリプトファン)
バランス系神経伝達物質の合成
(セロトニンの原料)
睡眠障害、性欲・食欲亢進
タンパク質アミノ酸
(フェニルアラニン)
興奮系神経伝達物質の合成
(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの原料)
運動失調、うつ、記憶障害、低体温
タンパク質アミノ酸
(メチオニン)
抑制系神経伝達物質の合成
(GABAの原料)
情緒不安定
脂肪リン脂質
(レシチン)
神経伝達物質の合成、
神経情報の細胞内への伝達
健忘、昏睡、夢の減少
脂肪脂肪酸
(アラキドン酸、リノール酸、リノレン酸)
脳細胞を構成免疫力低下、胎児・幼児の発育阻害
脂肪脂肪酸
(DHA)
脳細胞を構成記憶・学習能力の低下
ビタミンビタミンB3
(ナイアシン)
エネルギー代謝うつ、不安、情緒不安定、刺激への過剰反応、短期の記憶喪失
ビタミンビタミンB6
(ピリドキシン)
神経伝達物質の合成
(セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン生成の補酵素)
記憶力低下、イライラ、うつ、知能発育不全
ビタミンビタミンB12
(コバラミン)
神経伝達物質の合成記憶喪失、刺激への過剰反応、幻覚、錯乱
ビタミン葉酸
(プテロイルグルタミン酸)
神経伝達物質の合成うつ、統合失調症
ミネラルカルシウム脳神経の情報伝達脳機能低下
ミネラル亜鉛脳神経の情報伝達学習・記憶障害、嗅覚・味覚障害
ミネラル神経伝達物質の合成運動失調など中枢神経障害

「脳の栄養失調」に要注意!

私たちの脳が必要とする栄養素の中には、人間の体内で合成できるものと、そうでないものがあります。たとえば、アミノ酸では、セロトニンの原料となるトリプトファンも、ドーパミンやノルアドレナリンの原料となるフェニルアラニンも、GABAの原料となるメチオニンも、体内合成できません。脳細胞を構成する脂質のリノール酸も、体内で合成できない栄養素のひとつです。
これらの栄養素を、私たちは食べ物から得ています。体内で合成できる栄養素にしても、その原料はやはり食べ物です。ところが、今日の日本の食生活は、必ずしも脳に良い栄養素を十分に摂れているとはいえません。たとえば、ファストフードやコンビニ食が多いと、ヒジキ、干しエビ、干しシイタケといった乾物類は、意識しなければなかなか摂れません。野菜も不足しがちです。長期間このような食生活が続くと、神経伝達物質が足りなくなる危険性が出てきます。ダイエットなどで炭水化物を極端に減らした場合も、脳がエネルギー不足に陥る可能性があります。生活が豊かになり、食べるものを自由に選択できる現代は、知らず知らずのうちに「脳の栄養失調」を招きやすい食環境といえるでしょう。

では、脳の栄養失調にならないために、私たちは何を食べたら良いのでしょうか? 次では、脳=心の状態に特に注目して、栄養素についてもう少し学んでいきましょう。

次は…心のための栄養素の基礎知識

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