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弁証法的行動療法(DBT)

認知行動療法を知る 「変われない自分」を受け入れることから始める・弁証法的行動療法(DBT)

マインドフルネスを取り入れた情動コントロール技法

弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Theraphy:DBT)は、第三世代に分類される認知行動療法の一つで、重度のパーソナリティ障害を罹患していたという、アメリカの心理学者マーシャ・リネハンにより開発されました。境界性パーソナリティ障害の治療においては、効果の根拠が確認されている数少ない技法で、アメリカ精神医学会で推奨されているだけでなく、ヨーロッパなどでも高い関心を集めています。この技法の大きな特徴は、弁証法的な視点マインドフルネスを取り入れていることにあります。

コラム「弁証法とは」
弁証法とは哲学の用語で、ある概念(正)とそれを否定する概念(反)が対立する中で、より高い視点からの概念(合)にたどり着くという考え方のこと。認知行動療法の視点においては、たとえば「模範的な人間になりたい」という思いと「何にも縛られない人間になりたい」という思いが同時に存在する矛盾と向き合う中で、「『善くありたい』という内なる声に率直に従うことは、誰の中にもある身勝手な自分からの自由、利己的な自分からの自由を意味する」ということに気づくことを目指します。

弁証法的行動療法は、従来は治療できなかった、自傷行為自殺企図などの衝動行動を繰り返す患者も治療できる点が大きなメリットです。第一世代、第二世代の認知行動療法は、「自分を変えなければいけない」という覚悟とある程度の努力が求められることが少なくありません。そして、それを頭では分かっていても、うまくできないことが自己否定感や罪悪感につながると、衝動行動を起こす危険性が高いのです。しかし、弁証法的行動療法では、まず「変われない自分」を受容し、そこからどうしたら変化できるのかを客観的に観察していくため、自己否定感や罪悪感を生むことが少なく、衝動行動を繰り返してしまう人にも有効とされています。また、治療を進める中で、治療者と患者、そして患者同士の良好な関係が築かれるので、治療の離脱率が少ないというのも特徴のひとつです。

<どんな人(状態)に効果が期待できるのか>

  • 境界性パーソナリティ障害
  • 自殺衝動、リストカット、過量服薬など自己破壊的行為のある人
  • PTSD(心的外傷後ストレス障害)
  • 摂食障害
  • 双極性障害
  • 薬物依存
  • アルコール依存症

スキルを習得し、行動や感情・思考のパターンを変える

弁証法的行動療法は、4つの主要スキルを基にプログラム化された手順で行われます。療法の中核となるのが、①のマインドフルネススキルです。マインドフルネススキルを踏まえて、②~④を習得する、というイメージです。

弁証法的行動療法の4つのスキル

① マインドフルネススキル
失敗や好ましくない状態もあるがままに受容する

② 対人関係スキル
コミュニケーションの問題パターンに気づき修正する

③ 情動制御スキル
感情のメカニズムを理解し、コントロールする

④ 苦痛耐性スキル
マインドフルネスの応用で、苦痛耐性をアップする

治療は、この4つのスキルを習得する「集団療法」から始まります。さらに、スキルの習熟を重視した「個人療法」、衝動行動が起こりそうな場面で4つのスキルを般化させるための「24時間電話対応」、患者に翻弄された治療者の治療を目的とした「コンサルテーションミーティング」があります。こうした構造を維持しながら、半年から1年間治療を続け、習得したスキルを用いて、日常生活において引き起こされる行動・感情・思考の問題パターンを変えていくのが目標となります。

標準化DBTの治療構造岸 竜馬(2011)「弁証法的行動療法の有効性と問題点」,『Rikkyo Clinical Psychology Research』Vol.5,p.16,Rikkyo University,< http://ci.nii.ac.jp/els/110009325301.pdf?id=ART0009887049>(参照2017-1-23).

4つのスキルを日常生活に生かすトレーニング法

弁証法的行動療法は、治療というよりもトレーニングや学習に近いものといわれています。基本的な6ヵ月のプログラムは、マインドフルネススキルを2週間、情動制御スキルを6週間、マインドフルネススキルを2週間、苦悩耐性スキルを6週間、マインドフルネススキルを2週間、対人関係スキルを6週間といったサイクルで行われます。

ここで、あるカウンセリングルームの弁証法的行動療法の実施例をご紹介しておきましょう。

1. 個人療法
まず、治療の効果や参加姿勢などの説明を受けます。契約を結ぶと、標準的なスキルトレーニングの場合、最低週1回の面談義務づけられます。この面談に参加しない場合には集団療法への参加は認められなくなります。

2. 集団療法
週に1回、2時間のスキルトレーニング6~8人程度のオープングループで行います。主要な4つのスキルを習得できるよう、ロールプレイを交えながら進め、1年を1クールとし、4回以上欠席した場合はドロップアウトする決まりで、再度の治療は受けられなくなります。

3. 24時間対応電話相談
面談と面談の間に、トレーニングで習得したスキルを日常生活で生かすためのサポートをします。たとえば、衝動行動に駆られたときには習得したどのスキルが当てはまりそうか、などといったことを相談します。ただし、衝動行動を実行していないことが前提となります。

4. コンサルテーション
弁証法的行動療法を実施している治療者についても週1回のコンサルテーションミーティングへの参加が義務づけられています。プログラムを正確に実施できているのか、また、無意識に否定的な対応をしていないかなどの確認や、治療者自身の相談の場ともなります。

弁証法的行動療法を受けられる機関

弁証法的行動療法は、問題行動を適切行動へと変化させるのに有効な治療法ではありますが、日本で実施されるようになったのはここ10余年程度のことで、プログラムを提供している医療機関はまだまだ少ないのが現状です。しかし、心理カウンセリングや心の問題を扱う代替医療機関などでは、受けられるところも出てきています。

人格障害研究センター
http://jec-heart.net/

岐阜心理カウンセリング
http://mental-gifu.jp/archives/3721

受けられる機関が見つからないときは

弁証法的行動療法を受けるには、数か月~1年程度は定期的に実施する機関に通う必要があるため、通える範囲に見つからない場合は、セルフトレーニングを行える日記形式の書籍などを参考にするのも良いでしょう。医療機関やカウンセリングにかかっている場合は、医師やカウンセラーに相談して始めましょう。

『弁証法的行動療法実践マニュアル―境界性パーソナリティ障害への新しいアプローチ』

『弁証法的行動療法 実践トレーニングブック‐自分の感情とよりうまくつきあってゆくために』

『毎日おこなう弁証法的行動療法自習帳』

『弁証法的行動療法ワークブック―あなたの情動をコントロールするために』

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