心と運動の関係─3 どんな運動が心にいいのか

心と運動の関係─3 どんな運動が心にいいのか

運動と「うつ軽減効果」「不安軽減効果」

運動が心を軽くするということについては、これまでも紹介してきました。ひとくちに心の病といっても、その心理状況にはさまざまなものがあります。そのなかで運動がとくに効果を発揮するのが「不安軽減効果」「うつ軽減効果」であり、これらはさまざまな研究や論文で報告されています。

うつ軽減効果については、科学雑誌「CNS & Neurological Disorders – Drug Targets」に掲載されたベルン大学スポーツ科学センターの研究チームと、ハンブルク大学医学部の研究者が共同で行った研究の論文で、「運動や身体を動かすことは抑うつ症状の軽減に効果的であり、抗うつ薬と似た作用がある」と結論づけられています。また、不安軽減については、米メリーランド大学で行われた研究で、「運動は不安を軽減するだけでなく、情動的な出来事に直面した際も、不安が抑えられた状態を維持できる」と述べられています。

運動は単に気分転換ストレス解消として心の病を予防するだけでなく、現在心のトラブルに向き合っている人たちにとっても有益なアプローチといえるのです。

ポイントは「続けやすいもの」を選ぶこと

運動を取り入れる場合にはいくつかのポイントがあります。その第一は、心の負担となるような運動は行わないこと。「運動をしなければ」という気持ちがストレスになってしまうと逆効果で、目安や目標として1日これくらいというものがあっても、ノルマを過剰に意識すると、それができない自分を情けなく思ったり、落ち込んでしまったりなど、心のバランスを乱してしまいます。あくまでも、「メンタルヘルスのために取り入れる手法」という位置づけを忘れないようにしましょう。「今日は調子がよくないから時間を短くして軽いものにしよう」など、その時の自分と向き合ってコントロールしていくことが重要です。

「運動と神経伝達物質」のページでは、脳の新しい神経を増やしたり発達させたりする役目をもつBDNFが、運動によって増えることをお伝えしました。このBDNFに関する動物を用いた実験では、BDNFの増加は運動量に比例して増加することも報告されています。ただし、一方であまり激しい運動を行うと、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、精神面に負担を与える結果となることも指摘されています。そのため、翌日に疲れが残る、筋肉痛が出る、運動していること自体が辛くてストレスになるようなものも避けましょう。

運動がメンタルヘルスに有効であることを理解していても、「どうにもこうにも運動が苦手」という人がいます。そんなときは、体を動かす趣味をもちましょう。たとえば、ジムの機械の上で走ったり歩いたりすることは嫌でも、自然のなかのトレッキングなら楽しくできるという人もいるでしょう。庭いじり山菜採りダンスといった、楽しんで体を動かせる趣味があると、自然と運動習慣がつきストレス解消にもなります。

慣れてきたら強度を上げると効果的

では、実際どのような運動が効果的なのでしょうか?
さまざまな研究によると、どんな運動であれ、心の健康に大なり小なりの効果をもたらしてくれることが判明しています。体操ウォーキングジョギング縄跳び筋力トレーニング等々、できるもの、やっていて楽しいものを取り入れれば良いのです。しかし、より効果を高めたい場合に注目したいのは運動の強さです。現在、メンタルヘルスと運動療法に関する研究が進んでいますが、そのなかでも、とくに実際の研究対象になり明確な効果がわかりはじめているものは、主観的に「ややきつい」「きつい」と感じるレベルの運動です。楽しくできる体を動かす趣味軽度の運動からはじめて、体を動かすことになれてきたら徐々により効果の高い運動にトライしてみましょう。といっても、無理をして急激に強度を上げていく必要はありません。また、体を鍛えることが主目的ではないので、無酸素運動になるほど強度を上げるのは逆効果です。

運動強度のひとつの指針となるのが、「ボルグスケール」です。これは1970年に開発された、運動中に本人がどのくらい「辛さ」を自覚しているかを測るものです。

<ボルグスケール表>

6 非常に楽である
7
8
9 かなり楽である
10 楽である
11
12
13 ややきつい
14
15 きつい
16
17 かなりきつい
18
19 非常にきつい
20

体に適度な負荷を与えつつも、ストレスホルモンを分泌させない運動というと、このなかで、「ややきつい」「きつい」が該当します。たとえば、ウォーキングを取り入れている人で、今行っているウォーキング中は6〜12の比較的楽と感じる評価に該当したとしたら、これを13〜15の少しきついと感じる程度に歩く速度を上げるというのが、運動の強さを上げるということ。6からいきなり15に上げる必要はなく、最初は6から7、8と徐々に体を慣らしていきましょう。

心の負担にならない程度で、ゆるく目標をもって取り組み、それを達成することは心にポジティブな効果を生み出してくれます。そのときの体調を考慮しながら、楽しく運動を続けましょう。

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