心と運動の関係─2 運動と神経伝達物質

心と運動の関係─2 運動と神経伝達物質

運動で神経伝達物質の分泌が変わる・心が元気になる

心の病気を治療する一環として運動療法を取り入れることが有効であり、運動習慣のある人のほうがそうではない人に比べて心の健康度が高いことが、さまざまな研究で分かってきています。では、なぜ運動が心に効くのでしょうか?
脳には情報伝達の役割を担う「神経伝達細胞」100種類以上あり、種類によって特定の神経伝達物質を放出しています。さまざまな神経伝達物質がバランスよく分泌することで、心身の機能を維持しています。この神経伝達物質のうち、心に影響を与えるものに「セロトニン」「ノルアドレナリン」「ドーパミン」「エンドルフィン」「アナンダマイド」「GABA」などがあり、快感をもたらす、不安や怒りを軽減する、満足感・幸福感を高める、意欲を高める、といった作用があります。
ところで、「ランナーズハイ」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。マラソンランナーなどが長時間走り続けると気分が高揚し、いつまでも走り続けられるような気分になることで、これも運動の心への影響のひとつ。一定時間以上の有酸素運動を行うことによって、痛みを鎮めたり気持ちを高揚させたりする神経伝達物質のエンドルフィンが分泌され、苦しみを軽減多幸感をもたらすのです。

脳神経の働きに深く関わる「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という物質の分泌にも、運動は影響します。BDNFは、新しい神経をつくる、神経を発達させる、神経同士を連結させる、神経の保護をする、といった役目をもっているたんぱく質です。脳のほか臓器や血中など全身に存在していますが、アルツハイマー型認知症うつ病、不安障害、統合失調症などの多くの心の病気においては、脳(主に海馬や大脳皮質)でBDNFが減少していることが認められています。脳のBDNFが減少すると、脳神経がうまく発達しなかったり、保護されずにダメージを受けたりします。これにより、記憶の定着や学習のほか、情動や摂食行動の制御も難しくなります。
このBDNFを増やし、神経伝達物質の分泌量を高めるために役に立つ身近な活動が「運動」です。有酸素運動が、脳の中で記憶に深く関わる海馬のBDNFを増やすことは、世界各国の研究者により報告されています。そのメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、アメリカのダナ・ファーバーがん研究所の研究では、脳内でBDNFを増加させる「イシリン」というホルモンが、運動によって筋肉細胞から放出されることを確認しています。また、適度に肉体へ負荷をかけることにより交感神経を刺激し、中枢神経系でBNDFの分泌が高まると考えている研究者もいます。
このほかに、規則正しい生活適度に脳を使うことなどもBDNFを増やす要因とされています。これらを生活のなかで意識していくことが、メンタルヘルスには欠かせません。

ストレスホルモンの制御にも関与

運動が心に好影響を与える要因は、BDNFや神経伝達物質以外にもあります。その代表的なものが、コルチゾールというホルモンの作用を抑えるというものです。
コルチゾールは「ストレスホルモン」とも呼ばれ、外的ストレスに反応して副腎皮質から分泌されて交感神経を優位にし、脳を覚醒させてストレスに対抗できるようにする大切なホルモンです。しかし、ストレス過多で常にコルチゾールの血中濃度が高い状態だと、脳の中にある記憶や空間学習能力などに関わる海馬の神経細胞が壊れて萎縮していきます。また、脳細胞を減らしたり、ニューロンの生成を阻害したり、脳のBDNFを抑制したりもします。これはアルツハイマー病の代表的な病変であり、PTSDうつ病患者にも確認されています。そのほかにもコルチゾールが高い状態は、体と脳が興奮しているため、不眠を招いたり、体重を増加させたりといった肉体的な面でも影響があります。
そんなコルチゾールの作用を鎮めるのが、運動です。ただし、負荷の高い運動は脳が「対処すべきストレス」と認識してコルチゾールを過剰に分泌させる要因ともなるため、肉体的にも精神的にも辛すぎない適度な運動を心がけることが大切です。メンタルヘルスにつながる運動の強度については別のところで詳しく説明しますが、このように自分の体力・気力に見合った運動を習慣にする不安感気分の落ち込みがあるときに単発的に運動を行うことで、脳の神経伝達物質や、心に関わるホルモンが良い方向に作用し、メンタルヘルスの維持につながるのです。

こころにいいもの・いいことサイト