睡眠の質は何で決まるの?

「眠り」とは何か─4 睡眠の質は何で決まるの?

睡眠の質は何で決まるの?

人間に必要な睡眠時間は7~7.5時間

人間の理想的な睡眠時間はどのくらいなのか? これについては諸説ありますが、現在は、「ベストな睡眠時間は7~7.5時間」という説が最も有力です。近年の研究から、入眠から最初の3時間で脳の疲れをとり、次の3時間で身体の疲れを回復し、その後にストレスの緩和や記憶の定着が行われることが分かってきました。レム睡眠・ノンレム睡眠を繰り返す眠りのサイクルは、1サイクル90分。それを4回繰り返すという意味で、「ベストな睡眠時間は6時間」という説も有力ですが、6時間だと脳と体は回復できても、ストレスの緩和と記憶の定着がまだ行われていないということになります。
では、睡眠時間は長ければ長いほどいいのかというと、それも違うようです。イギリスで5年間追跡した認知能テストによると、睡眠時間が8時間より多かった人と6時間より短い人で認知能力が低下し、7時間睡眠の人が好成績となりました。アメリカで行った大規模な調査でも、睡眠時間が6.5時間以上7.5時間未満の人の死亡率が最も低く、記憶力や計算力のテストでも睡眠時間が増えるほど好成績となるものの、7時間をピークに低下しました。イギリス睡眠学会のジョン・シニアソン会長が、「睡眠は食べ物に似ている。摂取する量を減らし過ぎれば悪影響をもたらし、摂りすぎても害を及ぼす」と話しているとおり、睡眠時間は長すぎても短すぎてもいけないようです。

眠りの質を左右するのは入眠直後の3時間

睡眠を考える上で、時間同様に大切なのが眠りの質です。眠った時間は十分であっても、翌朝も疲れが抜けず、スッキリしていなければ、それは質の良い眠りを得られていないということ。逆に、質の良い眠りを得られれば、多少睡眠時間が短くても目覚めたときにすっきり感があるものです。
では、眠りの質とは何でしょうか? それは、ノンレム睡眠の深さです。人間の眠りは、レム睡眠(身体は休息しているが脳は覚醒している状態)とノンレム睡眠(身体も脳も休息している状態)に大きく分けられます。さらに、ノンレム睡眠には4つのステージがあり、ゆったりとしたδ(デルタ)波が脳波の中心となる第3ステージと第4ステージを「徐波睡眠」と呼びます(「睡眠のリズム」のグラフ参照)。この徐波睡眠が、睡眠の質の正体です。すなわち、ノンレム睡眠時は脳の休息や記憶の整理・定着のほか、免疫力の増強、成長ホルモンの分泌、細胞の修復などが行われますが、これらは徐波睡眠のときに最も効率的に行われているのです。逆に、十分な徐波睡眠が得られないと、心身に疲労が蓄積し、機能も徐々に低下していくのです。一晩のうち、ノンレム睡眠が最も深くなるのは入眠直後の3時間。ここが、睡眠の質を左右する一番のポイントとなります。

睡眠のリズム

あなたの眠りは大丈夫?

仕事などで強いストレスを感じている人は、寝入っても途中で覚醒してしまい、十分にノンレム睡眠を得ることができません。これは覚醒作用がある「コルチゾール」というストレスホルモンの影響です。通常、コルチゾールは早朝に多く分泌されますが、普段からストレスを感じていると早い段階でコルチゾールが分泌されるため、中途覚醒しやすくなるのです。また、テレビや照明をつけっぱなしにして寝たり、眠る直前までタブレットやスマートフォンを操作しているような人も要注意です。脳が興奮状態のまま入眠するので、最初の3時間で十分に深いノンレム睡眠が得られず、結果として眠りの質が悪くなります。このような眠りは「ジャンクスリープ」と呼ばれ、量を食べても必要な栄養が摂取できないジャンクフードと同様、「睡眠」という栄養がとれていないため、眠っているのに寝不足という状態になるのです。
なお、睡眠時間7時間~7時間半が、すべての人にとって理想的だというわけではありません。睡眠時間3~4時間でも大丈夫な人(ショートスリーパー)もいれば、8時間以上寝ないと日常生活に支障をきたす人(ロングスリーパー)もいます。歴史上の人物では、ナポレオンやエジソンがショートスリーパー、アインシュタインはロングスリーパーです。しかし、ショートスリーパーもロングスリーパーも、遺伝的なものはごくわずか。一説にはそれぞれ全人口の0.5%程度と言われています。自分がショートスリーパー、あるいはロングスリーパーに当てはまると思う人は、試しに1か月ほど7時間~7時間半睡眠を実践してみると良いでしょう。気分良く目覚められるようであれば、それまでの睡眠時間は、おそらく生活習慣による「慣れ」や「クセ」です。知らず知らずのうちに、睡眠の質を低下させているかもしれません。適切な睡眠時間を取れるよう、ライフスタイルや生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

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