睡眠と脳の関係

「眠り」とは何か─3 心の健康になぜ睡眠が影響するの?

心の健康になぜ睡眠が影響するの?

「夜眠れない」、「日中眠くなる」、「どうしても起きられない」など、眠りに関する悩みを抱えている人は少なくありません。近年、日本人の5人に1人が眠りについて悩んでいると言われており、安らかな眠りを手に入れるは難しいものとなりつつあるようです。ここではまず、特に多くの人が悩んでいる「不眠」について正しく知り、克服への糸口を探ってみましょう。

不眠と不眠症は違う?

ひと口に「不眠」といっても、原因や状態、期間によって捉え方が異なります。例えば、短期間(数日)仕事が忙しいために睡眠時間が取れなかった、あるいは怪我の痛みが酷くて眠れなかったという状態は、「睡眠不足」。環境を整えたり時間を確保したりすることで容易に解消できるものです。一方で、仕事上のミスや失恋、身近な人の死など、一時的に強いストレスを受けたことで眠れない状態は、「急性不眠症(適応障害性不眠症)」です。こちらも、「なぜ眠れないのか」という原因がはっきりとしているため比較的解消しやすい眠りの悩みといえるでしょう。しかし、「早くから横になっているのに眠れない」「なぜ眠れないのか分からない」など、原因がはっきりしないまま眠れなかったり、眠りが浅い状態が週2回以上の頻度で1ヵ月間以上持続すると「慢性不眠症」と診断され、なんらかの治療が必要となってきます。
不眠症についても、床についてから寝入るまでに2時間以上かかる「入眠障害」、夜中に何度も覚醒してしまう「中間覚醒」、必要ないのにかなり早く目覚めてしまう「早朝覚醒」、十分に眠ったはずなのに目覚めた時にすっきりしない「熟眠障害」などのタイプに分けられ、それぞれ対策が異なります。

睡眠が足りないと心と身体に大きな影響が

不眠症によって十分な睡眠が取れない状態が続くと、身体と心にさまざまな変調が起こりはじめます。その一つが疲労回復の遅れです。疲労は、運動や精神活動により発生した活性酸素が、細胞を酸化させることが原因といわれています。酸化した細胞からは老廃物が発生します。これが、疲労物質(Fatigue Factor:FF)です。FFはタンパク質の一種で、FFが増加すると、身体組織を省エネモードにするため細胞死(アポトーシス)が進み、身体機能が低下します。同時に、脳に「疲れた」という信号を送る物質の生産を促し、疲労感を伝えます。日中の活動で発生した疲労物質は体内に蓄積していきますが、睡眠時になると、抗酸化作用を持つアミノ酸が疲労回復物質(Fatigue Recover Factor:FR)を生産し、ダメージを修復します。しかし、睡眠が足りないと疲労回復物質が十分に生産されず、ダメージを修復しきれないため、身体と心が正常に活動することができなくなります。たとえば、以下のような症状があげられます。

① 記憶力、思考力、集中力の低下
何度聞いても話を覚えられなかったり、同じ動作を繰り返したりして仕事や勉強がはかどらなくなります。また、会話や作業に集中できなくなり、簡単なミスを繰り返すようになります。

② 身体のだるさ
身体に疲労物質が蓄積し続けると、「朝からしんどい」「何もしていないのにだるい」など、常に疲れを感じる状態になります。

③ 日中の眠気
疲労物質の増加を認識した脳が休息を取ろうとすることによって、日中に猛烈な眠気に襲われます。

④ 心の不調
十分な睡眠は精神を安定させます。そのため十分な睡眠が取れないでいると精神が不安定となり、うつ病などにかかりやすくなります。

⑤ ストレスの蓄積
眠れない状態が続くとストレスが蓄積し、イライラや食欲不振、突然の不安感などさまざまな症状が引き起こされます。眠れないこと自体がプレッシャーとなり、ますます眠れなくなるという悪循環に陥ることもあります。

⑥ 過食
睡眠は食欲のバランスを保つ作用もあるため、睡眠不足によって異常な食欲を感じ、カロリー過多によって肥満になる可能性が高まります。

⑦ 頭痛
睡眠不足が引き起こす頭痛には、3つのタイプ(片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛)があると言われています。寝不足による片頭痛は、脳内の血管を急激に拡張させ、血管が炎症を起こして周囲の神経を刺激することで頭痛を引き起こします。一方、緊張型頭痛の場合は、寝不足による身体の疲労の蓄積で筋肉が緊張し、血流が悪化することで起こります。群発頭痛は、寝不足が原因と言われているものの、発生するメカニズムはまだよくわかっていません。

⑧ めまい・吐き気
睡眠不足によって、継続的な吐き気やめまいが生じる場合があります。これは脳や身体が疲れを解消できず、免疫力をはじめとする身体の各機能が初期段階の異常をきたしている状態を表しています。

シフト勤務の人は要注意!ハイリスクな「不規則睡眠」

24時間営業の小売店や医療・介護施設での勤務など、シフトワーク(交代勤務)に従事している人は、不規則な睡眠によって心と身体に大きな影響を受ける可能性が高くなります。本来、人間は昼間活動して夜眠るという昼行性(ちゅうこうせい)の動物ですが、継続的に夜勤が続く場合は身体がある程度順応していくため、シフトワークよりは生活リズムの変化の影響が少ないと言われています。しかし、日勤と夜勤が入れ替わり繰り返されるシフトワークの場合、夜勤から日勤へ、日勤から夜勤へと切り替える際の「時差ボケ」によって体内時計に狂いが生じます。これにより、寝付きが悪くなる、眠りが浅くなる、途中で何度も目が覚めるといった「不眠」を引き起こす可能性が高いのです。シフトワーカーは日勤労働者に比べて脳卒中などの冠動脈疾患での死亡リスクが2倍以上、前立腺がんが3.5倍という統計データもあり、体内時計の乱れによってうつ病などの精神病発症リスクも大幅に高まるとされています。

また、睡眠パターンが不規則に変化することによってホルモンバランスが崩れ、食生活が乱れます。摂取カロリーが増えるといったアメリカの調査結果もあるほか、糖の過剰摂取や空腹による低血糖でアドレナリンやノルアドレナリンなどのホルモンが分泌されやすくなり、イライラして攻撃的になりやすくなるので注意が必要です。

次は…睡眠の質は何で決まるの?

こんな記事も読まれています