心の病気のための睡眠学コラム─第4回 眠りが脳をクリーニングする

心の病気のための睡眠学コラム─第4回 眠りが脳をクリーニングする

就寝時の老廃物処理スピードは覚醒時の約10

脳の老廃物処理スピードは、起きているときに比べて寝ているときのほうが約10倍も速いということを知っていますか? アメリカのロチェスター大学医療センター長のマイケン・ネーデルガード博士の研究チームは、2013年10月にサイエンス誌に「Sleep drives metablite clearance from the adult brain(睡眠は大人の脳からの代謝産物の除去を行っている)」という論文を発表しました。
脳の代謝プロセスはまだ十分に解明されていませんが、脳脊髄液(脳漿)が細胞外領域を循環しながら老廃物を排出することが分かっています。この仕組みをグリンパティックシステムといいます。ネーデルガード博士は、生きたまま動物の脳の血流量や脳脊髄液の流量を観察できる2光子顕微鏡を用い、ネズミのグリンパティックシステムを観察。覚醒時と睡眠時では、老廃物の除去速度がまるで違うことを発見したのです。
その仕組みは、シンプルですが驚くべきものでした。すなわち、ネズミが入眠すると、脳細胞の一部(神経細胞とは違う細胞とみられています)が60%ほどに収縮して細胞外領域のスペースが広がり、大量の脳脊髄液が流れるようになるのです。これにより、老廃物処理スピードは約10倍に加速しました。なお、この現象は、自然睡眠だけでなく麻酔などの人為的な睡眠でも同じように起きるそうです。

睡眠不足は認知症やうつ病の発症にも影響?

ところで、グリンパティックシステムが脳細胞から排出する老廃物のひとつに、アミロイドβというたんぱく質の一種があります。アミロイドβは、脳内に蓄積すると脳神経細胞にダメージを与え、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病の原因になると言われています。また、若年発症のうつ病患者の脳は、アミロイドβの代謝異常が多いことも分かっています。つまり、睡眠不足が続くとグリンパティックシステムが効率的に働くタイミングを失い、アミロイドβが脳内に蓄積。認知症やパーキンソン病などの脳疾患、さらにはうつ病などの精神疾患のリスクが高まると考えられるでしょう。人は、極限状態において、食物を摂らないよりも睡眠を取らないほうが早く死に至ると言われています。また、実験により、長時間眠らないでいると幻覚や幻聴などの症状が出ます。こうしたことも、睡眠とグリンパティックシステムとの関連で解明されてくるかもしれません。さらには、瞑想が心身に及ぼす影響なども、このメカニズムが関係している可能性が考えられ、研究の深化が期待されます。
なお、睡眠時にグリンパティックシステムの効率が上がるということは、見方を変えれば、覚醒時にはグリンパティックシステムの効率は大幅に低下するということです。これについてネーデルガード博士は、「脳が自由に使えるエネルギーには限界がある」と述べています。脳疾患や精神疾患のリスク低下のためだけでなく、仕事などのパフォーマンスを維持するためにも、睡眠時間の確保は重要だと言えるでしょう。

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