認知行動療法を知る 感情や思考を記録して見直す・認知再構成法(コラム法)
認知行動療法の基本的な技法
私たちは、何かに対して客観的な観察や論理的な思考を巡らせることなく、一方的な思いや判断を自動的に持つことがあります。たとえば、友達にメールを送ってすぐ返信がないとき、「何か悪いことを書いただろうか」とか「自分は嫌われている」とか、「すぐ返事をよこさないのは失礼な奴だ」といったような思考です。これを自動思考といいます。自動思考は、経験や知識、価値観、性格傾向などによって形成された、その人が持つ考え方や感じ方(=認知)のパターンです。この認知パターンが現実から大きく乖離してしまうと、日常生活や人間関係が難しくなります。先のメールの例でいえば、現実に自分が嫌われているかどうか分からないのに「嫌われている」と思い込み、落ち込んだり腹を立てたりしてストレスを抱えてしまうのです。
このような認知パターンと現実とを対比させて認知の歪みを明らかにし、正しい認知へと導くのが認知再構成法です。アメリカの精神医学者で認知療法の創始者であるアーロン・ベック教授らが、自動思考にアプローチする方法として考案されました。認知行動療法の基本的な技法であり、できごとや思考を項目ごとに整理して記録することから、コラム法とも呼ばれています。自分でやる認知行動療法の多くは、この方法を活用しています。
<認知再構成法(コラム法)が向いている人・状態>
- ネガティブな思い込みが強い人
- 何かあると自分を責めてしまう人
- うつ病
- 全般性不安障害
客観的事実に注目して「思い込み」に気づく
認知再構成法(コラム法)では、非機能的思考記録表(Dysfunctional Thought Record:DTR)と呼ばれるシートを用いて、実際に経験した出来事をいくつかのコラムに分けて記録しながら認知の再構成を進めていきます。DTRシートに決まったフォーマットはありませんが、下図のようなパターンが一般的です。もっと詳しく見ていく場合は、自動思考の根拠(どうしてそう思ってしまったのか)と、反証(その思いの不自然なところはどこか)の2項目を加えると、自動思考の再検討がよりしやすくなるでしょう。
【DTRシートの記入例】
いつ・どこで | 状況 | 自動思考 (とっさに浮かんだ思考) | そのときの気分(%) | 自動思考の再検討 (別の考え方はないか) | 別の考え方をした 場合の気分(%) |
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8月29日 自宅で | 母親から電話があり、頼まれて購入し送った商品が間違っていたと言われた。 | 母を失望させた。 何をやってもうまくいかない。 | 落ち込み:80% 恐怖:40% 怒り:40% | ちゃんと言ってもらって良かった。 次はもっとしっかり確認しよう。 | 落ち込み:40% 怒り:20% |
8月31日 職場で | 上司に任された社内プレゼンがうまくいかなかった。 | 上司を失望させた。 無能だと思われた。 こんな大役を引き受けなければよかった。 | 落ち込み:90% 後悔:80% 恐怖:50% | 最初はうまくいかなくて当たり前。 とにかく最後までできた。 失敗を次に生かそう。 | 落ち込み:50% 後悔:30% 恐怖:20% |
この療法では、うつ状態の改善、ネガティブな気分の軽減、現実に沿った行動をとりやすくなる、といった効果が期待できます。また、より高い効果を得るためには、
①思い込みから離れて客観的な事実を書き出していくこと
②見逃している事実がないか、状況をよく思い出すこと
③積極的に視点を変えてみること
④必要に応じて、親しい友人などの意見を聞いてみること
などがポイントです。ただし、実際の取り組みは、カウンセラーについて行うことも、自分一人で行うことも可能ですが、いずれにしても、過去のつらかったできごとを詳細に思い出すことにもなるので、はっきりとした目的意識を持つことが重要です。つまり、どんな不快なできごとや、つらいできごとも、「認知の仕方を変えることによって体験を大きく変えることができる」という強い希望を持ち、なおかつ、それでいて楽観的に始めることがおすすめです。また、医師のサポートを受けている方は、始める前に医師と相談するのがよいでしょう。
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