心に働く運動:太極拳

1970年代、日本で一大ブームとなった中国の太極拳。もともとは武術で、起源には諸説ありますが、道教の僧が動物の動きから発案したという話も。数百年にわたる長い年月の中で発展し、現在は、ICOが正式に認める格闘スポーツでもあり、老若男女が取り組める健康法としても世界中で愛好されています。なお、健康法としての太極拳は、1950年代に中国国家が制定した「簡化太極拳(24式太極拳)」が一般的です。

12週間の太極拳で抑うつ症状が改善

太極拳習慣的に行うことにより、次のような効果を期待できます。

<身体的効果>
足腰が鍛えられる
平衡感覚が養われる
●筋肉や腱の柔軟性、および関節の機能が向上する
心肺機能向上する
身体の歪み調整される

<精神的・脳機能的効果>
自律神経のバランスが整えられて気分がスッキリする
リラックスして情緒が安定する
ストレスが軽減される
記憶力、注意力、反応力向上する

2017年6月の『Natural News』によると、アメリカ内科学会が発行する学術誌で、うつ病患者50人に対して太極拳の効果を調査した論文が発表されています。この論文では、週2回の太極拳を12週間行ったグループは、太極拳を行わなかったグループに比べて、抑うつ症状が大きく改善したと報告されています。また、太極拳ゆったりとした腹式呼吸が、脳内のセロトニンの分泌を促すことも知られているほか、全般性不安障害、パニック障害、不眠症、認知症などの改善効果が見られたという臨床報告も見られます。近年注目されているポジティブ心理学(※1)においても、太極拳は、フロー体験(※2)やマインドフルネスを得やすい方法の一つだと考えられているようです。

(※1)精神疾患や心理的な問題などを研究対象とするのではなく、個々の人間がより良く幸福に生きるための研究を行う学問。

(※2)周囲がまったく気にならないほど何かに没頭し、充実感や幸福感に満たされた心理状態。意識は研ぎ澄まされて集中しているが、身体的には呼吸や心拍がゆったりと安定してリラックスしている。いわゆる「忘我」や「無我」の状態。

東洋の哲学と知恵が凝縮された「動く瞑想」

ゆったりと流れるような円運動が特徴的な太極拳は、ジョギングラジオ体操などに比べるとスローテンポですが、これもまた、心の状態に好影響を与えるリズム運動のひとつです。しかし、太極拳は単なる運動ではありません。「太極」や「陰陽」といった伝統的な東洋哲学を核に、中医学や吐納術と呼ばれる呼吸法などを取り入れた、心と身体の統一を目指す身体技法です。重心を低い位置で安定させ、手足をゆっくりと動かすことで、「気」の流れを整え、体内の陰陽バランスを調整するのです。呼吸を意識しつつ、一つひとつの動作に集中することから、「動く瞑想」「動禅」などとも言われています。

太極拳の動きは、一般的な体操やエクササイズとはいくつかの点で異なっています。まず、動作は自然な円運動が基本で、強制的に力をかけるような動きは行いません。また、筋肉を意識的にこわばらせたり、関節や腱を伸ばし切ったりすることもありません。身体に過度な負担をかけないので、運動が苦手な人や高齢者はもちろん、うつ症状などで長くベッドに寝ていた方、車椅子の方などにもおすすめです。

Photo credit: akunamatata on VisualHunt.com / CC BY-ND
Photo credit: Cal State Fullerton on Visualhunt.com / CC BY-NC-SA

こんな記事も読まれています