解離性障害の元となる経験_ケース

心の病気の症状別ケーススタディ「解離性障害」(自分が自分でないように感じる)

【CASE】「解離性障害」(自分が自分でないように感じる)

父親が暴力的な人で、子供の頃は、すぐに殴られたり、狭い部屋に閉じ込められたりしていた。そんな時には3歳年下の妹をかばうようにしながら、「これは現実じゃない、夢なんだ」と自分に言い聞かせてやり過ごした。その後、両親は離婚。自分と妹は母親に引き取られ、以後、父親とは会ったことがない。学校卒業後は小さな会社に就職し、結婚もして平凡だが穏やかに生きてきた。
しかし、あるときミスをして取引先に謝りに行ったとき、先方の社長から怒鳴られていると、立っているはずなのに足に感覚がなくなり、自分が現実の世界にいるのか夢を見ているのか分からなくなってきた。まさに、かつて父親に殴られていたときと同じ感覚だった。
これをきっかけに、仕事のトラブルに対処しているときや、忙しくて深夜まで残業が続いているときには、「今自分は働いているんだ」という実感がなくなるように。トイレの鏡で自分の顔をふと眺め、「俺ってこんな顔だったっけ?」と、自分が自分であることがとても不思議に思えることが増えていった。

こうした、今という現実を頭では理解しているけれど感覚として体感できない自分が赤の他人のように感じるといった感覚は、解離性障害のなかの「離人感・現実感消失障害(離人症)」に当てはまります。

解離性障害の症状

解離性障害とは、何らかの理由でアイデンティティを失い、意識に障害を受けて記憶が抜け落ちたり、自分という感覚を感じられなくなったり、自分ではない別の人格を生み出してしまう障害です。あまりにも辛い過去の体験を記憶から消し去ったり、ショックな出来事の後に気を失ったりといったことが誰にでもあり得るように、これは一種の心理的防衛反応でもあります。しかし、それが頻繁に(あるいは慢性的に)起こることで、生活がしにくくなっていきます。
解離性障害には脳の器質的な疾患は認められず、統合失調症うつ病といった他の精神疾患の一症状として起こる場合もあります。離人症のほか、記憶をなくす「解離性健忘」、苦痛を伴う感情から逃れるため突然今の環境から逃げ出す「解離性遁走」、自分以外の人格が現れると「解離性同一障害」などがあります。

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