心の病気のための食物学コラム 第11回 うつ病とチョコレート

うつ病の危険信号?!「とにかくチョコが食べたい!」

どんなときにチョコレートを食べていますか? もしも、嬉しいときや楽しいときより気分が落ち込んだときによく食べている、あるいは食べたくなるのなら、そして、最近そういうことが多いかも…と思ったら、ちょっと注意が必要かもしれません。

2010年、アメリカで「チョコレートの消費量と気分の関係」についての研究論文が、内科学会誌に発表されました。その研究では、抗うつ剤を使用しておらず、心疾患や糖尿病にかかっていない約1,000人の成人を対象に、1週間に食べたチョコレートの量を申告してもらうと同時に、うつ状態の程度を自己評価してもらったそうです。その結果、うつ症状がまったくなかった人が1片28gのチョコを5個食べていたのに対し、最もうつ症状が重かった人は12個と、2倍以上の差が出たそうです。また、2014年に愛知学院大学と製菓会社が共同で行った実証研究では、45~69歳の男女347人に、カカオポリフェノール72%を含むチョコレートを1日25g(一般的な板チョコ約1/2枚分)、4週間食べてもらい、血圧測定や血液検査を行うと共に、健康調査アンケートを行いました。この結果、メンタル面で活動的になる効果が期待できると発表されています。この2つの研究結果から、「人は抑うつ状態になるとチョコレートが食べたくなり、実際に食べると気持ちが落ち着き元気になる傾向がある」といえそうです。

チョコを欲しがる脳に何が起きているのか?

では、実際にチョコレートは人の心(脳)にどんな影響を与えているのでしょうか。

上記の愛知学院大学と製菓会社の共同研究で行った追加分析では、チョコレートを食べることにより、脳内のBDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)が増えることが判明しました。BDNFは分泌性タンパク質の一種で、海馬などの中枢神経系に多く存在し、神経細胞の発生、成長、保護、再生を促すほか、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成にも関わっていると考えられています。

一方、うつ病の原因の一つとして近年注目されているのが、ストレス刺激を受けて分泌過多となったコルチゾールが、脳の海馬や偏桃体にダメージを与え、BDNFを減少させることで発症するという「神経可塑性仮説」です。実際、ストレス刺激でコルチゾールが増加するとBDNFは減少し、ストレスが解消されるとBDNFは増加することが確認されています。神経可塑性仮説の正確な仕組みはまだ解明されていませんが、より踏み込んだ動物実験などでも、この仮説を支持する結果報告がいくつも出されています。チョコレートに含まれるポリフェノールには、高い抗酸化作用があり、脳の血流量を増やして血液内にあるBDNFを供給すると見られています。

■ここまでの仮説や研究結果をまとめると、次のようになります。

・ストレス刺激で脳内の神経がダメージを受けると、BDNFが減少する

・BDNFが減少するとセロトニンの合成がスムーズに行われなくなり、抑うつ症状が現れる

・抑うつ症状から回復すべく、脳がBDNFを求めてチョコレートを食べたがる

・チョコレートを食べるとBDNFが増加し、抑うつ症状が軽減される

BDNF+有酸素運動でさらに効果アップ!

抑うつ症状の解消にチョコレートのポリフェノールが効果的なのは分かりましたが、だからといって、毎日大量に食べると糖質や脂質の摂り過ぎが心配ですね。実践する場合は、できるだけカカオ成分が多く、できるだけ糖質の少ないものを選ぶと良いでしょう。また、1日の摂取量は、愛知学院大学と製菓会社の実験を参考に、1日20~25g程度にすると良いのではないでしょうか。また、チョコレート以外にも、緑茶、コーヒー、サバやサンマなどの青魚なども、BDNF増加が期待できる食品です。

さらに、さまざまな研究結果から、有酸素運動がBDNFの分泌を促進することも分かってきました。運動をすることで神経伝達物質の分泌が促され、海馬が大きくなり、BDNFが多く発現するのだそうです。心の病気に働く有酸素運動については、「心のための運動学」でいろいろご紹介しています。自分に合った運動を見つけて、試してみてはいかがでしょうか。

 

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