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マグネシウム

心の病気のための食物学コラム 第7回 マグネシウムが心をサポートする(2)マグネシウムと睡眠障害

メラトニンの生成にはマグネシウムが不可欠

夜になると眠くなり、朝になると目が覚める。規則正しい生活の基本となる、睡眠と覚醒に深く関わっているのが「睡眠ホルモン」といわれるメラトニンです。メラトニンは、脳の松果体で生成され、目から受ける光の刺激によって分泌がコントロールされています。すなわち、朝、目覚めて太陽の光を浴びると、その刺激が脳の視床下部にある視交叉上核から上頸部交感神経節を経由して松果体へと送られて分泌が抑えられます。そして、光の刺激を受けてから14~16時間が経過して暗くなってくると、再びメラトニンの分泌が始まり、脈拍や体温、血圧を低下させて眠気を起こします。その後、深夜にかけてメラトニンの分泌は増え続け、身体を眠りやすい状態にキープします。こうしたことから、メラトニンが十分に生成されないと、不眠や途中覚醒が起こりやすくなるのです。
メラトニン濃度と時間のグラフメラトニンは、セロトニンから合成され、セロトニンはトリプトファンから合成されます。

トリプトファン → セロトニン → メラトニン

セロトニンは血液脳関門を通過できないため、トリプトファンの形で脳に送られ、セロトニンとメラトニンの合成は脳で行われます。このとき、松果体から分泌される酵素が使われますが、補因子としてマグネシウムが不可欠です。過度なストレス状態にあると、体内のマグネシウム(とカルシウム)はどんどん消費されてしまうので、マグネシウムが不足するとセロトニンやメラトニンの合成がうまくいかなくなり、睡眠障害が起きる可能性があります。したがって、ストレスや気分障害を伴う睡眠障害は、マグネシウム不足を疑ってみると良いかもしれません。マグネシウムを補給する方法は、食事サプリメントによる方法が一般的ですが、近年は、経皮摂取用のオイルなども出ています。経口よりも摂取効率が良いので、不眠等の症状が重い場合は使ってみると良いでしょう。
脳の図

体内時計のメカニズムにもマグネシウムが関与

睡眠障害の原因の一つに、体内時計の乱れがあることはよく知られています。私たちの身体は、さまざまな生体リズムを持っています。その中で、睡眠と覚醒に大きく影響をおよぼしているのが、概日リズムと呼ばれる1日周期の生体リズムです。この概日リズムは、生体時計によってコントロールされています。地球上の1日は約24時間ですが、体内時計の周期は約25時間。なぜ、1時間の違いがあるのか明確には分かっていませんが、昼と夜の長さが年間で変化することに対応するためのバッファのようなものだという説もあります。

体内時計は、地球上のほとんどの生物に備わっているもので、人間は、脳の視交叉上核にあると考えられています。視交叉上核は、文字通り視神経が交差している真上に位置しており、視神経から外界の明るさの情報を受け取ります。この情報をもとに、体内時計の誤差を調整するのです。しかし、現代社会は、街中は24時間昼のように明るく、パソコンやスマホも陽光のような強い光で視交叉上核を刺激します。現代人は、体内時計が非常に乱れやすい環境の中で生きているといえるでしょう。体内時計が乱れると、概日リズムを維持するのが難しくなり、覚醒と睡眠のリズムも乱れます。寝つきが悪くなったり、夜眠れなくなったり、日中に眠くなったりします。この状態が続くと、不眠障害に陥ることもあります。体内時計の調整には、メラトニンの分泌のコントロールと同様、朝、太陽の光を浴びることが有効です。というよりも、光の刺激で体内時計がリセットされたことにより、メラトニン生成のプログラムのスイッチが入ると考えると良いでしょう。

そして、最新の研究によると、体内時計の維持・調節にも、マグネシウムが深く関わっていることが分かってきました。科学雑誌『ネイチャー』2016年4月21日号に掲載された記事によると、エジンバラ大学とMRC分子生物学研究所の研究チームが、人間、藻類、真菌類の3種類の細胞において24時間周期でマグネシウム濃度が規則的に変化していること、この変化が体内時計の維持に重要な役割を果たしていることを発見したのです。前述のように、メラトニンの生成にマグネシウムが欠かせないことは以前から知られていましたが、体内時計の調節に直接的に関わっているということは、これまで知られていませんでした。詳しい研究はまだこれからのようですが、心と身体に欠かせない良質な睡眠をとる上で、マグネシウムが大切な役割を担っていることは確かなようです。

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