知る人ぞ知る治療法 うつ・パニック障害に「鍼」による東洋的アプローチ
鍼
WHOで有効性が認められた代替医療
うつ病をはじめとする精神疾患の治療に対する東洋医学的アプローチのひとつに、鍼(はり)治療があります。鍼は中国医学の古典的な理論に基づく治療法です。2000年以上の歴史があり、主に中国・韓国・日本で発達しました。具体的な治療法としては、長さ40~80mm、直径0.17~0.33mm程度の髪毛のように細いステンレス製の鍼を、経穴(けいけつ=ツボ)に刺して刺激を与えることで、体内の「氣」のバランスを整えます。西洋医学的見解では、鍼の刺激が自律神経などに作用して心身をリラックスさせ、血液やリンパ液の代謝がアップすることにより、人間が本来持っている自然治癒力を高めると考えられています。
鍼の技法には、指してすぐ抜く「単刺し」、刺したまま10~15分置く「置き鍼」、鍼に低周波の電流を流す「パルス鍼」などの種類がありますが、いずれも痛みはほとんどありません(治療内容によっては、あえて痛みを感じる施術を行う場合もあります)。また、使い捨て鍼が急速に普及していることから、感染症の心配もありません。現在は、欧米各国でも研究・活用が進んでおり、2002年には、世界保健機関(WHO)で、代替医療の位置づけで多くの疾患への有効性が認められています。この中には、うつ病、躁うつ病などの気分障害も含まれています。
病名ではなく症状を診て治療
東洋医学では、心の病気は身体の「巡り」が滞る「循環障害」と考えられています。鍼灸を精神科医療に臨床応用する研究を行っている神奈川県立精神医療センターでは、うつ病を頭部瘀血(とうぶおけつ)という頭における血液の滞りとの関連に注目。鍼による頭部瘀血の改善が精神症状の改善につながるとの臨床経験を得ています。また、パニック障害については、強い恐怖や不安を感じてこわばったままの深層筋をほぐすことで、症状の改善に成功している例もあります。このほか、双極性障害、統合失調症、全般性不安障害、間欠性爆発性障害、摂食障害などの治療例が多数あります。
ただし、鍼に限らず東洋医学では、西洋医学で命名された病名を基準とした治療は行いません。脈や舌の状態などから患者さんの全体症状を診て、そこからどこにどんなアプローチをしていくかを決めていく、いわばオーダーメイドの治療法です。このため、同じ病名であっても患者さんによって治療法は異なります。また、病院やクリニックのように「○○科」という区分もありません。
治療を受けたい場合は、前述の神奈川県立精神医療センターのように、専門的に臨床研究を行っている機関以外は、鍼灸治療院のサイトや口コミを個別に調べ、ピンと来たところがあれば、電話でいろいろ聞いてみると良いでしょう。なお、治療費は、一部健康保険が適用されることもありますが、基本的には自由診療(10割負担)となります。価格設定のガイドラインも特にありませんが、およその目安としては、1回の治療費は3,000~6,000円程度です。
神奈川県立精神医療センター
http://seishin.kanagawa-pho.jp/treat2/toyo_brief.html
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