知る人ぞ知る治療法「PTSDにテトリスが驚くべき効果!! 」
10分間のテトリスでフラッシュバック症状が軽減
PTSD(心的外傷後ストレス障害)のフラッシュバックを予防・緩和する手段として、コンピュータゲームのテトリスが注目されています。テトリスは、画面の上からランダムに落ちてくる凹凸のあるブロックを、回転・移動させて、画面の下に隙間がないように並べていくパズルゲームです。とてもポピュラーなゲームなので、プレイしたことのある人は多いでしょう。
スウェーデンのカロリンスカ研究所・臨床神経学科のエミリー・ホームズ心理学教授は、テトリスとPTSDのフラッシュバックについて長年研究をしてきました。2009年、研究チームはオックスフォード大学において、精神疾患の病歴を持たない成人60人を被験者に、ある実験を実施。それは、ショッキングな映像を被験者全員に視聴してもらったのち3つのグループに分け、それぞれ10分間「テトリスをやる」「クイズをやる」「何もしない」という課題を与えるというものでした。この結果、テトリスのグループは、他のグループに比べてフラッシュバックする回数が少ないことが分かったのです。実験から1週間の様子を各自にレポートしてもらった結果も、同様でした。さらに、2014年から2015年にかけては、自動車事故に遭って病院に来た患者71人に対し、約半数にその場でテトリスをしてもらいました。そして、事故後1週間でフラッシュバックを起こした回数を調査したところ、テトリスをした人はしなかった人に比べ、平均値で半分以下でした。これらの結果を受けて、ホームズ教授は、「テトリスは、フラッシュバックを軽減させる」と結論づけています。また、テトリスだけではなく、脳が視覚処理を行う没頭的な行動であれば、同様の効果が得られるとも考えられています。
視覚情報処理の行動介入で脳にゆとりを与えない
テトリスがなぜフラッシュバックの予防・軽減に有効なのかは、まだよく分かっていません。しかし、被験者はショッキングな出来事の記憶が消えることはないものの、イメージが鮮明ではなくなるのだそうです。こうしたことから研究チームは、テトリスによる視覚化の行動介入が心的外傷(トラウマ)後の侵襲的記憶を減少させると考えています。
これまでPTSDの治療は、心的外傷(トラウマ)をケアするものがほとんどでした。しかも、現在の標準的な治療は、フラッシュバックなどの症状が出て初めて行われることになっています。しかし、この研究が臨床に活用されるようになれば、これまでなかった、フラッシュバックの予防ケアが可能になるでしょう。そのためには「まだ多くの被験者を使った実験が必要だ」と、ホームズ教授は述べていますが、心の病気治療の新たなアプローチとして期待されています。
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